2011年12月19日月曜日

“夕顔” ヒカルが地球にいたころ……/野村美月

“夕顔” ヒカルが地球にいたころ……(2) (ファミ通文庫)


「哀しみも…痛みも…遠い世界の、出来事なのよ…。
ここでは、傘を差さなくても…平気…なの」

という、ヒカルが地球にいたころ……②/夕顔です。
①よりも、なんだか主人公たちに好感が持てるようになってきました。

慣れたから?
それぞれの弱さが出てたから?
…ヒカルがあんまり喋らなかったからかも…?

作風としては、文学少女と似た感じだと思います。
その前の、ちょっと迷走し続けた感じの作風に戻るよりは当然、そうなるのでしょうけど…。
静かな物語りの中に強い感情が込められた作品です。

ちょっとモノローグ長めで焦れったくなることもありますが、
じっくり読んでいくと良いです。

『ちょうちんあんこうを拾った。
放課後、持って行ってもいいか?」

2011年12月14日水曜日

製鉄天使 /桜庭一樹

製鉄天使


東海道を西へ西へ、中国山地を越えて、 
さらに下ったその先、地の果てみたいな、 
日本の最果て……鳥取県に、 
すげぇ女たちがいたのを知ってるかい? 
そいつらはエンジンを唸らさせ、 
鉄の武器を自在に操っては血みどろの戦いを繰り広げ、 
そして……アリゾナみたいに広かった中国地方の制覇に挑んだものの、 
ある夜、とつぜん、全員でもってどこかにきえちまってねぇ。 
そのせいで、族のあいだじゃ、 
永遠の伝説ってやつになったのさ。 


という、燃え盛る魂「赤緑豆小豆」の、爆走する青春を描く物語。 

「赤朽葉家の伝説」のスピンオフ、だったと思うけど舞台以外の繋がりが思い出せない…。 


「族」の時代から「イジメ」の時代への過渡期、という時代感を背景にした、いつもの桜庭一樹です。つまり描くのはオンナの生き様。 

主人公、小豆の人生記が始まるのかなと思っていたら、青春記だったので、ちょっとだけ拍子抜けしたでござる。 

ストーリーとしては、鉄を操る主人公が夜な夜なバッタバッタと敵を倒してまわるってだけで特別「こりゃあすげぇ」という感じもないですが、この空気はすきだな~。と思います。 

超能力バトルなんかやってるもんで、普段よりちょいと軽めで読みやすくもありました。 
オチも好きですよ。 

ずーっとテーマが同じ作家って、珍しいのか良くいるのか、どっちなんでしょう?


「あたしら、ハイウエイに恋してる! 
純情咲かせにゃ、十三歳がなくぜ!」

2011年11月26日土曜日

ゴールデンタイム3 仮面舞踏会 / 竹宮ゆゆこ


ゴールデンタイム〈3〉仮面舞踏会 (電撃文庫)



 「初めて男の子とそんな事態になるとしたら、それは絶対パリだよね、って。恋人たちの街、パリ。エッフェル塔の見えるプチホテルで……心から愛してる人と……。運命の、一夜だよ。」

馬鹿っぽいんだけど、寂しさを感じたり郷愁を感じたりしてしまう。
見ていたいんだけど、見ているのが痛くて恥ずかしくて、でもつい見てしまう。
この人の作品はいつもそんな感じ。
先も気になる。

2011年11月6日日曜日

"葵" ヒカルが地球にいたころ……/野村美月



「文学少女シリーズ」野村美月の新作は、源氏物語モノでした。 

主人公が是光(藤原惟光)とヒカル(光源氏)で、ヒロインが葵。 
ヒロインは寅さん方式で次巻は夕顔だそうです。 

テイストは前作に似ているけど、主題のせいかちょっと軽くなった印象。 
主人公ズもコノハや遠子先輩ほど魅力的かというとうーん。 

ストーリーはとっても良いです。 
次巻も読みたい本ではあります。

ヴィークルエンド /うえお久光

ヴィークルエンド (電撃文庫)

今回のネタは「共感覚」。
数字に色がついて見えるとか、音に色がついて見えるとか、そういうアレ。

生まれてくる子供たちが、すべて「共感覚障害」を持っているという世界で
共感覚を増幅・制御するサプリを使って、自分の体を「乗り物」として錯覚させることで、その「乗り物」でレースを行う、というお話。


共感覚のあふれる世界というものがしっかり構築されていて
それが物語のがっちり食い込んでくる感じはSFとしてとっても良作。

レースのスピード感も、うえを久光の本領といった感じで好きです。

2011年10月28日金曜日

紫のクオリア /うえお久光






クオリアという言葉がある。
あなたがSF者ならあるいは耳にした(読んだ)ことがあるかもしれない。
感覚質、と訳されることもあるそれは、ようするに『頭の中で生まれる、感じ』のことで、
例えば、赤い色を見て赤い、と感じるその『感じ』、
青や紫を見た時の、その『感じ』のこと。
嗅覚でも痛覚でも物事に関する感想でも、とにかく何かを感じた時のその印象のこと。
それは、人それぞれで、完全に共有することは出来ない性質のものである。
つまり、
「他人が赤を見ているとき、自分と本当に同じ色を見ているのだろうか?」



ヒロインのゆかりは、生物がロボットに見える。
本当にそう見えているかは、誰にもわからない。
ただ、本人がそういうのを信じるだけである。

というSF。
ライトなふりして、結構ハードなSFで、SF者大喜びです。

二編の中編とエピローグで、二編目は同じ登場人物で平行世界モノ。


谷川流「学校を出よう!」に雰囲気似ていて、どちらかが好きな人にはもう片方もかなりオススメ。
波動関数とか、コペンハーゲン解釈とか、哲学的ゾンビとか色んなワードが出てきて、中二な方々にもオススメ。


「ねぇガクちゃん。……勘違いならいいんだけれど、これって、ガクちゃんのじゃない?」
「……あのね、ゆかり。何回だっていうけどね、あたしにネジは使われていません」

2011年10月7日金曜日

GOSICKsIV‐ゴシックエス・冬のサクリファイス / 桜庭一樹



GOSICKsIV‐ゴシックエス・冬のサクリファイス‐ (角川文庫)



クリスマスを控えた聖マルグリッド学園は、慌しくも楽しげな雰囲気に包まれている。
今日はお祭り。
生徒たちが仮装して、「駒」になって行われる、「リビングチェス」が始まろうとしていた。

という、ゴシックsの4冊目にしてゴシック最後の短編集。

平和だった最後の一日。
喧騒の陰で明かされる、グレヴィールの深淵なるドリルの顛末とは・・・?
ほか3編。


このあとに、つらい運命が待っていることを知っているからこそ、
優しい気持ちで読める一冊。

バビロニア・ウェーブ / 堀 晃






 2年近い調査で明らかになた定在波の姿は、
 両端がレーザーを反射する作用をも持つ重力場からなる、
 直径1200万キロメートル、全長5380光年の、
 銀河系を垂直に貫くレーザー光束だった。



地球から3光日という太陽系の端っこにとんでもないスケールの舞台があって、
そこで不可思議な出来事が起きる。
その原因は何か?
そもそも何故こんな光束が存在するのか?
地球からやってきた教授の謎めいた目的とは?

というストーリーは、まさにハードSFそのものといった感じ。
つまり、SF的なもの・舞台についてのあれこれがメインで、決して背景にはならない。
ラストで明らかになるバビロニア・ウェーブの全貌には、急激に視野が広がる、SFならではの気持ちよさを感じさせてくれます。

30年以上前の本ですが、古さを感じさせない良作。

・・・古さといえば、ひとつありました。
「セチ」が「CETI」と書かれています。
今は、
「SETI」―Search for Extra-Terrestrial Intelligence―地球外知的生命体探査
と言います。

当時は、communication with extra-terrestrial intelligence―地球外知性との交信
だったのですね。

2011年9月21日水曜日

あなたのための物語 / 長谷敏司




サマンサ・ウォーカーは死んだ。


サマンサ・ウォーカーがひとり、病気療養中の自宅でこの世を去ったのは、35歳の誕生日まぢかの寒い朝だった。
それが、彼女という物語の結末だった。



という書き出しで始まる、長谷敏司の近未来SF。
序章で7ページに渡って死の瞬間を描写し、本編はそこに至るまでの、長い、死への物語です。

人間の脳の状態を再現できる、つまり人間の感情や、人間の人格そのものを再現できる、
ITPという言語がメインのSFガジェットです。
感情を人工的に操作したり、コンピュータ上に1から作り出した人間と区別のつかない人格が出てきたり、
イーガン的というか、昨今のSFの最先端テーマと言える1冊。

内容も描写も濃い、重い。
長谷敏司の独特の文体もどうにも読んでて疲れるのですが、それでもぐいぐいと引っ張っていく力はさすが。

2011年9月17日土曜日

有川浩脚本集 もう一つのシアター!  / 有川浩




 【註64】
 舞台の反応は本当に読めない。ここは小説だったら絶対にカッコいい場面のはずである。
 しかし、読めないだけに面白い。この経験を経て、作者は演劇の魅力に今さら取り憑かれつつある。



劇団モノ小説、「シアター!」が作者による脚本で劇になった!
ということで、その脚本が文庫になりました。

シアターフラッグの面々が高校に招かれて講演をすることに。
しかしその準備中、次つぎと何者かによる妨害に見舞われる。
果たして犯人の意図は?という筋立て。

お話よりも、ところどころにある註釈が面白い。
実際の劇ならではの諸事情や裏事情、観客の反応がどうだったか、稽古での様子など、シアター!を読んで劇団を面白いと思った読者には嬉しい小話てんこ盛りです。

ところで、脚本1作しか入ってないものも「脚本集」って言うの?

半熟作家と“文学少女”な編集者(ミューズ) / 野村 美月




 ――またおいで。それで、本の話をしよう。


編集者になった遠子先輩が、売れっ子高校生ライトノベル作家の担当として活躍(?)する、という、どう考えても蛇足なシリーズ最終巻。主人公は作家の少年です。

モチーフは伊勢物語・風と共に去りぬ・ハムレット・伊豆の踊り子。

たとえ蛇足でも、また読めたことに感謝したい1冊。
それに最後に出てきたあの人の分だけで、十分に満足させていただきました。
油断しているところにここでそう来るのか!と言うのがずどん、と一発入って、小説を読む楽しさってこういうとこにありますね。

良く考えながら読んでいれば分かっていたようなことだけど、素直に読んで衝撃を受けるほうがお得です。

GOSICK VIII 下 ‐ゴシック・神々の黄昏‐ / 桜庭一樹




 「勇気を、勇気を持とう。不屈の、勇気を……。最後の瞬間まで、生を、未来をあきらめない。我々は生きるのだッ――!」


上巻で別れ別れになってしまった二人。
ヴィクトリカは母、コルデリアの手引きで監獄を脱し、新大陸を目指す船に。
徴兵された一弥は前線でただひたすらに生き延びてゆく。
二人は再会できるのか…?


これで最後のゴシック、Ⅷの下、完結編。
ヨーロッパの小さな国に東洋からやってきた「春来たる死神」九城一弥と、いにしえの生き物たちの末裔、欧州最大の知性「灰色狼」ヴィクトリカ・ド・ブロワとの、謎と冒険と、愛の物語。


ああ、終わってしまったなあ。と感慨にふけってしまいます。
ずいぶん長いことかかって、一時は作者に忘れられたかとも思われたゴシック。終わるとなると寂しい。
でも、良い終わりだったと思います。
暗い時代を生きていく子供たちが、否応なしに大人へと変化していく様子を見ているのは辛いけれど、希望のある描き方が好きです。

キノの旅 14―the Beautiful World / 時雨沢 恵一




 「知らなければ、それまでですよ」

グロ系風刺寓話的旅モノ連作短編シリーズ、キノの旅。
衝撃的だった第1巻から年月重ねて14冊目。
変わらず旅を続けるキノとエルメスとは違って、読者のほうはいつの間にか遠くへやってきたものです。

収録作は、

朝日の中で・b the Dawn・b
情操教育の国 Do What We say!
呟きの国 My Daily Life
規制の国 Unreal Young Man
開運の国 The Fifth "C", Cozenage
遺作の国 Write or Die
亡国の国 Self-destruction
結婚の国 Testament
寄生虫の国 Cure
差別をする国 We Are NOT Like Us.
正しい国 WAR=We Are Right!
卑怯者の国 Toss-up
朝日の中で・a the Dawn・a

どこから読んでも大丈夫。
人の世の情と無常を感じたい年頃のあたなへ。

 「諦めません。親にばれても大騒ぎされても絶対。あたしこの仕事好きだし」

2011年9月9日金曜日

GOSICKVIII上‐ゴシック・神々の黄昏‐ / 桜庭一樹




「それなら肌に……
肌に刻めばよい。そうすれば、いつか再び、わたしの黒い死神に逢えるかもしれないのだから。
かすかでも、いいのだ。たとえ夢でもいいのだ。わずかな希望もなしに、ここを出ていきたくはない。」



ゴシック最終章。
遂に世界に、二人の間に、嵐がやってきました。
運命に引き裂かれる二人。
彼らは、生きて再会することが出来るのか・・・!

という感じに大変盛り上がってきました。
物語の初期から予言されていた方向へ寸分違わず突き進んでいます。
史実よりもずいぶん早く始まってしまった第二次世界大戦。
この時間のズレに意味があるのかどうか、気になります。

下巻が楽しみでなりません。



でも、ゴシックSのⅣを先に読むべきだった様子・・・?
イラスト付が出てから買おうと思って図書館で予約順番待ちなので間違えてしまいました。

クォンンタムデビルサーガ アバタールチューナーⅢ / 五代ゆう





 「それでも現に<神>は存在するのだ、と言ったらどうする」

という、読み応え満点でお届けするアバタールチューナーⅢ「第2部・辺土篇」です。


後書きによれば、
「なぜジャンクヤードができたのか」
「セラの正体や生い立ちはなんなのか」
「最後に現れたサーフそっくりの男はだれなのか」
等々の謎に答えが出る謎解き篇となっております。




太陽光を浴びただけで身体が結晶化し、死に至る「キュビエ症候群」が席巻する終末な舞台で、
地球生命存亡を懸けた、上位存在とのコンタクトを目指す<神>モノで、
その<巫女>が「マクロな量子的存在」で、
かつデジタルデータしか認識できないというサイバーな展開。
そして主人公は精神構造を操作する、「精神技術者」でしかもサイキック。


これが舞台背景の説明のためだけに用意された物語だと思うと、
要素詰め込みすぎじゃない?もったいなくない?
とも思ってしまいますが面白いので良し。
能力バトル、ただしちょっとSFの香り、からここまでストレートなSFに持ってくるとは。


Ⅱの、あの終わりから突然ヒート=穂村一幾が主人公で始まるのはちょっとびっくりしましたよ。
しかも性格違いすぎる!っていうかみんな性格違いすぎる!あれ、ゲイルさんは?
と楽しめることいっぱいです。
裏話って楽しいですよね。


<ジャンクヤード>が出てくるまでは、いつになったら出てくるのか~、とジリジリさせられます。
ジャンクヤードの話に期待感を持って読み始めると、それまでが冗長に感じてしまうかも。
終盤の急展開具合は、手に汗握りますよ。




 「すると史上初、チューリングⅡをパスしたAIが現れたというわけなのね」

2011年9月4日日曜日

学園キノ 4 / 時雨沢恵一



 「まあ、いきなり4巻から買う人は……、それ以外の人よりは少ないだろう」


思いっきり「少ない」人になってしまいました、学園キノ4巻。
1~3には手も触れずに読んでしまいましたがまったく支障ありませんでした!

言わずと知れた
フローム・マイ・コールド!――デーッド、ハーンズ!」
と言いながら変身する魔女っ子モノのような何かです!

いや懐かしい感じす。15年くらい前のライトノベルにはこんなのが溢れていました。
内容も教訓もなく、ただノリが良いというだけの本が。
携帯小説に文句を言えないようなのが沢山ありました。

この作品は確信犯(誤用のほう)でやりたい放題やっているわけですが。

これはこれでありだよなあと思う三十路です。

2011年8月16日火曜日

俺の妹がこんなに可愛いわけがない8 / 伏見 つかさ




 「……他に、好きな人がいるの?」


という第8巻。
可愛い女の子が、可愛いことをする、だけの本です。
が、侮ってはいけない。
読んでいて楽しいシリーズです。

2011年8月14日日曜日

果しなき流れの果に / 小松左京



 N大学理論物理研究所助手の野々村は、
 ある日、研究所の大泉教授とその友人・番匠谷教授から一つの砂時計を見せられる。
 それは永遠に砂の落ち続ける、砂時計だった。

 彼らは知る由もなかった。
 その背後で十億年もの、時空を超えた壮大な戦いが展開されていようとは――



という、SFの巨匠小松左京によるワイドスクリーンバロック

4次元的に閉じられた砂時計の謎を追って、それが出土した古墳へ向かうあたりはSFらしいわくわくがあって先を楽しみに読めたのですが
中盤から後半は舞台があまりにも飛躍してしまって、追いつくのが大変です。
あちこちに飛躍するわりに、各エピソードはあまり掘り下げられないので
どうしても物語が発散してしまっているような印象。

超未来人と、神のような上位階梯の存在たちとの争いは、
古典を読むにあたって避けがたい読みづらさもあって、
ぼーっと読んでいると良くわからなくなってしまいます。

しかし、序盤にあるエピローグ(その2)と最後のエピローグ(その1)を読むためだけに他の章すべてを読む価値は十分あります。
エピローグの物哀しさや、壮大な物語に対する小さな結末、な感じはとても好きです。

 ――――あなたたちすらこえるものとはなにか?
 ――――超意識の意味は?
 ――――進化管理の意味は?

メグとセロン VI 第四上級学校な日 / 時雨沢 恵一




 「新聞部は……、どうだい?」
 「最高です!素晴らしい人たちです。楽しんでいます。」



という、メグとセロンの6冊目。
リリアとトレイズよりも長いシリーズになってしまいました。
本編よりも続編、続編よりも番外の方が巻数が多いという一連の作品ですが、
「メグセロ」は学園日常モノなのでいくらでも続けられそうな感じです。


で、今回はさらに日常分増量で、

セロンの妹とメグミカの弟が、電話で初対面しながら登場人物紹介な「リイナとクルト」。

珍しくもニック主観で、
あの人が、なんと新聞部の顧問になってしまう掌編「顧問」。

学校行事でお遊びなオリエンテーリングで真剣に優勝を狙う、
その傍ら部長の過去を暴くぞ!という「どこへ行こうと、あなたはそこにいる」。

短期留学生が新聞部に入部した!
二人称で綴られる、田舎の一般人から見た、
超都会の超お金持ちたちの有閑倶楽部・体験談「我々は新聞部だ」

の4本でお送りします。


のんびりした生活の中にも、それぞれの部員たちがお互いを大切に思っているのがよく表れていて、幸せな日常です。

彼らがセレブな連中だということは分かっていましたが、
一般人からの視点で語られると、羨ましいも憎らしいも通り越してしまってます。

一般人視点といえば、4話目の二人称で進むというのはちょっと珍しくていいですね。
あなた=読者ということで、読者にもこの世界を初体験してもらいたいというところでしょうか。
意図は違いますが、雰囲気はテッドチャン「あなたの人生の物語」っぽくて好きです。
古川日出男「ベルカ、吠えないのか?」も二人称だったなあ。

その「あなた」たる、新人くんは再登場するのでしょうか?楽しみです。


普段、ロクシェ語でほわっとしたボケキャラなメグミカが、
ベゼル語で会話すると頼れるお姉さんになってしまうのがとても可愛くて良いと思います。

2011年8月8日月曜日

旅立ち。 卒業、十の話




10人の作家による、
小粒な短編が10編。
十の物語と言わずに、十の話と題するのは噛み砕いているつもりなのかしらん�

爽やかに、テーマ通りのお話を読ませてくれた、小路幸也「あなたの生まれた季節」が一番良かった。

もの凄くストレートで頬がゆるんだ、草野たき「覚悟してろよ、渡辺純太郎!」も良かった。

川端裕人「見よ、百億の鳩が迫っている」は、なにかの間違いのように紛れ込んだノスタルジックSF。

宇宙人の文化様式が地球で言う学校そっくりだったからって、やってきた彼らを転校生と呼ぶなんて、変で楽し過ぎる。


どれを取っても、「これはいらなかったな」と言うようなのはなく、良いアンソロジーでした。

2011年8月4日木曜日

扉の外 / 土橋 真二郎



強烈につまらなかった・・・。
久々にものすごい地雷を踏んだ。

まさか徹頭徹尾、俺SUGEEEEEオンリーのみだったとは・・・。
文章もあまりにも稚拙。

2011年8月1日月曜日

クォンタムデビルサーガ アバタールチューナーⅡ / 五代ゆう




 「作戦を続行する。
  俺たちは天に、<教会>と<楽園>に、<神>に、叛逆する。」


五代ゆうの箱庭SF、急転の第二巻。
ただの電脳空間ではない様子のジャンクヤード編はここまでです。

絶対の掟すら確かなものではなくなり、
急激に変容して破滅していくジャンクヤードで、サーフたち<エンブリオン>は
セラを守るために、自分たちの仲間を守るために戦う。
すべてを飲み込む混沌からの絶望的な撤退戦で、残された希望は神に等しい存在へ抗うこと。


ただの能力バトルものというだけではない緊張感にページをめくる手が止まりません。
設定だけ見ても目新しいというほどではない、むしろ陳腐なお話と思えるのに
こんなに力のある物語が綴られていると、もう続きが気になって仕方ないのです。

過去へ繋がる第3巻、早く読みたい・・・!

“文学少女”と恋する挿話集4 / 野村 美月




 「で?あなたは恋をしたの?」
 遠子の目が、甘く輝いた。
 唇をほんの少しだけほころばせて――愛おしそうに、ささやいた。

 「しています、ずっと」



文学少女、挿話集の4。
番外編「見習い」の番外編が1編に、
美羽、ななせ、麻貴の子「蛍」、舞花のそれぞれその後編。
を含む全13編で読み応えたっぷりでお送りします。

美しい世界の中にも悲しいことや辛いことがある、というスタンスだった本編とは違って、
幸せなことばかりで埋め尽くされている挿話集。
竹岡美穂のイラストと相まって、輝くばかりの情景に溢れています。

この本を読んで幸せになれるのも、本編で彼らがどれだけ苦しんで、がんばっていたかを知っているからでしょう。
重厚で長いお話の番外編の面白さ、というのを目いっぱい実感できます。

こういう番外編が作れるのは何冊にも渡って書かれるライトノベルというジャンルの
特性、いいところ、だと思います。


珍しく、今巻では自分も読んでいるお話がいくつか題材だったので
遠子先輩の言っていることが面白く読めました。
面白く、というか・・・
坂口安吾「桜の森の満開の下」を「恐ろしい」と言いながらも
「う~ん、美味しい!」と言ってしまう先輩は、さすが文学少女・・・!
と唸ってしまいます。
「深く繊細な味わい」で、「凄絶なほどに美しい」のは同意しますが!
あのグロさとホラーな緊張感を食べて「目を閉じて、じぃぃぃぃぃんと」は出来ません!


ほかには、
「見習いの、発見」での「銀河鉄道の夜」
「おやつ」での「かもめのジョナサン」も既読でしたが

菜乃が解説するお話は遠子先輩が語るよりも庶民的で分かりやすいというか
物語の登場人物について、一緒に考えて行けるので、寄り添いやすいですね。
実はこっちのほうが好きかもしれません。

「かもめのジョナサン」は後半はやっぱり好きになれない本でした。
宗教色強くなってくると先輩が言うように「おなかの中にズシンとたまる」感じ。
前半の、ジョナサンががんばって上手く飛べるようになっていく爽快感は好きなんだけどな~。


ということで、既読本が題材だとやはりもう1段階面白く読めるということがわかった最終巻1冊前。
これは、やはり題材になったアレコレを読んでから、始めから読み返すべきでしょうか・・・!?

それだけの価値がある物語だと、今更ながらに再認識しています。
何年もかけて、読み込んでいく価値のあるものだと。

2011年7月31日日曜日

クォンタムデビルサーガ アバタールチューナーⅠ  / 五代ゆう



                カルマ
 誰が俺たちに、このような生を与えたのだ。



荒廃の地ジャンクヤードで、楽園に迎え入れられるために戦う人々たち。
そこでは6つの「トライブ」と呼ばれる集団が、覇権を争っていつ果てるとも知れぬ争いを続けていた。

という閉鎖感満載の箱庭SF、開幕篇。

ゲームの原案として書き出した物語のようで、同名のプレステゲームがあるようです。


五代ゆうと言えばデビュー作にものすごく嵌った記憶があります。
あれは重厚なファンタジー大作でした。
今作は重厚なSF大作です。


暗い箱庭世界で作られたっぽい人々が戦うのは、秋田禎信「ハンターダーク」そっくり。
今のところ能力バトル全開ですが、
続いていくとSF色強くなるとのことで楽しみです。

2011年7月30日土曜日

小松左京氏、死去

小松左京さんが亡くなってしまいました。
最近、いくつか続けて読んだばかりだったので驚きの気持ちで一杯です。
心より追悼の意を表します。

恥ずかしながら有名所しかまだ読めていませんが、
日本SFの基礎を作った一人という謳い文句に偽りはありません。

「復活の日」での、誰も聞いていないであろうラジオ放送を、最期まで行う教授の話が印象的でした。


 「 日本SF小説の草分けとなった作家の小松左京(こまつ・さきょう、本名・実=みのる)さんが、26日午後4時36分、肺炎のため亡くなった。80歳だった。告別式は親族で済ませた。

 大阪市生まれ。京都大在学中から作家の高橋和巳と同人誌で創作を始める。経済誌の編集やラジオ台本作家などを経て、1962年「SFマガジン」からSF作家としてデビュー。64年、細菌による人類滅亡を描いた「復活の日」で注目を集めた。地殻変動によって日本列島が壊滅していく73年の長編「日本沈没」(日本推理作家協会賞)は400万部を超えるベストセラーとなり、映画も大ヒットを記録。85年には「首都消失」で日本SF大賞を受賞。2006年には谷甲州氏と「日本沈没 第二部」を出版した。

 大阪を拠点に活動し、大阪万博ではテーマ館サブプロデューサーとして活躍。阪神大震災後は復興に向けて都市論、情報論を積極的に展開した。代表作は他に「日本アパッチ族」「エスパイ」「さよならジュピター」などがある。
2011年7月29日 読売新聞

2011年7月28日木曜日

象られた力 kaleidscape  / 飛 浩隆





 文様は感情や感覚に働きかける作用がある。
 そうして文様同士でも反応を起こす。


グランバカンスの人です、と言えば分かる人もいるかもしれません。
2004年度「SFが読みたい!」国内篇第1位。
絶賛する声のものすごく多い本作は、初の短編集です。

確かにSF的な発想・表現力など素晴らしく図抜けていると思います。
こんなにパワーのある作品を他に挙げろと言われるとどうしよう・・・と思ってしまいます。

でも、全体に漂うグロさ、というか気持ち悪さがどうも苦手です。
これはSF特有の気持ち悪さではないかなと思いますが
結合双生児の意識の中に生きてきた3人目の「生」と言えるのかと問いかけられる「生」とか
図形に秘められた力が解放されてしまったときの世界が溶けるような崩壊感とか
未開の沼地で莫大な数の生き物達が争う、その中心にわずかな時間だけ再生される少女とか
そういうところにグロさを感じるのです。

グランバカンスのほうがストレートにグロかったですが
この本のストレートでないグロさは、ずん、と来る。
この人の本をまた読みたい、と思う反面、もう読みたくないとも思ってしまう。


さて、そんな本ですがそういうところを抜きにすれば、面白いのは保証つきです。

各短編がそれぞれレベル高いのですが
やはり一番は表題作。

惑星“百合洋”が謎の消失を遂げてから1年、近傍の惑星“シジック”のイコノグラファー、クドウ円は、百合洋の言語体系に秘められた“見えない図形”の解明を依頼される。だがそれは、世界認識を介した恐るべき災厄の先触れにすぎなかった。

というお話。図形SF?と言えばいいのか。
図形言語というのはまさに斬新。

この作品の描く光景には圧倒されるものがあります。
図形言語の考察も緻密で、さすがだな~という感じ。
そして全ての崩壊。


街全体が百合洋図形で華やかに彩られている光景は、
秋山完の短編「まじりけのない光」の、全ての物質に拡張現実のテクスチャが貼られている世界を思い出します。
図形の認識によって力や人間の反応を引き出すというのは、どう考えても、ろくごまるにの伝説的著作「食前絶後!!」に出てくる「視覚魔法」だなあと思って読んでおりました。

逆転世界  / クリストファー・プリースト




「地球市」と呼ばれるその世界は、全長450メートル、年に60kmほど『移動』する動く都市である。
主人公ヘルワードは、成人した日、初めて都市の外へ出ることを許された。
そこで彼が見たのは、太陽も大地も教わったような球ではない、いびつに歪んだ世界だった!

という、センスオブワンダー溢れる古典SFの名作の一つです。

世界の姿がおぼろげに推測できるようになって来る2部後半までが多少退屈ですが、
その後に待っているパラダイムシフト
塗りかわる世界観の連続、が素晴らしい。
「星を継ぐ者」を初めて読んだときのようなわくわくがあります。

移動する世界という点で「冬の巨人 古橋秀之」が良く似ていますね。オマージュ元かな?
異様な世界という点で「時計の中のレンズ(「海を見る人  小林泰三」収録)」を連想します。

オチはもうちょっと先まで解説してくれたらうれしかった。
最後の30ページでどんでん返ししたと思ったら
最後の3ページでもう一回どんでん返し、なのは好きです。


以下最後のとこだけネタバレ