2011年7月28日木曜日
象られた力 kaleidscape / 飛 浩隆
文様は感情や感覚に働きかける作用がある。
そうして文様同士でも反応を起こす。
グランバカンスの人です、と言えば分かる人もいるかもしれません。
2004年度「SFが読みたい!」国内篇第1位。
絶賛する声のものすごく多い本作は、初の短編集です。
確かにSF的な発想・表現力など素晴らしく図抜けていると思います。
こんなにパワーのある作品を他に挙げろと言われるとどうしよう・・・と思ってしまいます。
でも、全体に漂うグロさ、というか気持ち悪さがどうも苦手です。
これはSF特有の気持ち悪さではないかなと思いますが
結合双生児の意識の中に生きてきた3人目の「生」と言えるのかと問いかけられる「生」とか
図形に秘められた力が解放されてしまったときの世界が溶けるような崩壊感とか
未開の沼地で莫大な数の生き物達が争う、その中心にわずかな時間だけ再生される少女とか
そういうところにグロさを感じるのです。
グランバカンスのほうがストレートにグロかったですが
この本のストレートでないグロさは、ずん、と来る。
この人の本をまた読みたい、と思う反面、もう読みたくないとも思ってしまう。
さて、そんな本ですがそういうところを抜きにすれば、面白いのは保証つきです。
各短編がそれぞれレベル高いのですが
やはり一番は表題作。
惑星“百合洋”が謎の消失を遂げてから1年、近傍の惑星“シジック”のイコノグラファー、クドウ円は、百合洋の言語体系に秘められた“見えない図形”の解明を依頼される。だがそれは、世界認識を介した恐るべき災厄の先触れにすぎなかった。
というお話。図形SF?と言えばいいのか。
図形言語というのはまさに斬新。
この作品の描く光景には圧倒されるものがあります。
図形言語の考察も緻密で、さすがだな~という感じ。
そして全ての崩壊。
街全体が百合洋図形で華やかに彩られている光景は、
秋山完の短編「まじりけのない光」の、全ての物質に拡張現実のテクスチャが貼られている世界を思い出します。
図形の認識によって力や人間の反応を引き出すというのは、どう考えても、ろくごまるにの伝説的著作「食前絶後!!」に出てくる「視覚魔法」だなあと思って読んでおりました。
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