2011年4月30日土曜日

塩の街―wish on my precious





 この世に生きる喜び
 そして悲しみのことを 


有川浩、デビュー作にして、電撃ゲーム小説大賞受賞作。
10年前にこれを読んだのがいけなかった。おかげで売れてるのを知ってても手を出す気になれなかった。
SFの皮だけかぶった切なさ系小説。

SF設定はメインでなく背景と考えても甘すぎるし、
終末モノとしては切迫感を出そうともしていない。
切なさメインでもいいが、主人公達にイマイチ感情移入できなかった。

第一章のヒロインの名前がクラゲなのがまた、どうにかならなかったのか。
ダメ押しにイラストが下手すぎる。

当時から大賞受賞作には当たりがないと、揶揄される原因の1冊だった。

阪急電車がすごく面白かったので、始めから見返してみようと思ったけど
ダメ印象が上書きされただけだった。
終末ものが好きなので、採点が辛いのかもしれない。
この後の「空の中」は面白かったので、「塩の街」の後に何があったのか気になる。


ホメるところは、雰囲気作りかな。

2011年4月29日金曜日

阪急電車





 もう一度康江を振り返ることはなかった。
 正しい行きずりの関係のように。


ずっと勧められていたのだけど、デビュー作がダメだったのでそれ以来避けていた有川浩。

失敗しました。

もうちょっとガマンして読んでおくべきだった。


実在する駅と沿線を舞台にした群像劇。
すれ違う人々、それぞれのドラマがほんの少しずつ絡みあう。
というお話。

恋の始まりがあり、復讐の終わった女がいて、
友達との会話に花を咲かせる女子高生たちがいれば、
友人関係を終りにしたいと思う主婦がいる。
孫と祖母がいて、恋の終わりもある。


たまたま同じ車両になっただけの人の、たった一言が人生を変えてしまうような感覚が好きです。

登場人物たちも好感がもてて良い。
特に、「かっこいいおばあちゃん」時枝が最高。


惜しむらくは、考え方がみんな似通ってて区別しづらい。
知性的で理性的で、思ってることに共感できるんだけど、登場人物みんなそうだ。


群像劇や連作短編というジャンルがそもそも好きなのもありますが
とても楽しめました。

映画化もしたそうで、観に行きたいが・・・。

2011年4月25日月曜日

空想オルガン





 籠の中で生きてきたインコは自由に飛べなくって可哀想って思う?
 私にはそうは思えなかったんだよ。

 だって籠の中で生まれてきたわけじゃん。
 生まれたときから身の程を知ることができて本当にラッキーだよ。


ハルタとチカシリーズ3冊目。
コンクールの地区大会から東海大会までのお話。

さわやかでいいです。
何度でも読み返せる日常青春ミステリ。
いろいろ良いこと言ったりします。

犬の飼い主を探したり、ギャルオーケストラの鉄の掟の秘密を追ったり。
舞台が静岡なので親近感が湧きます。


渡邉さんのオチもなかなか素敵。

2011年4月15日金曜日

異星人の郷 下





下巻。

異星人のクレンク人がキリスト教に改宗していく様が面白い。

いち宗教としてのキリスト教ではなくて
自然科学・哲学・生活すべての基礎であったそれの描写も興味深くてページをめくる手が止まらない。


現代パートはもうちょいボリュームがあったほうが嬉しかったかな…。

ラストは驚きの展開!
…ではないものの情緒豊かでこれも好きです。

トータルではかなり面白かった。
地味なファーストコンタクトと、
ハードなSF理論、
文献史学という耳慣れない分野の紹介、
3つの要素がすべて読み応えがありました


現代SFの佳作として十分にお勧めできる1作。
読んでる間は「だったん人の踊り」がテーマミュージックでした。
ソングオブアワーホームランド、というらしい。

2011年4月10日日曜日

私の男





桜庭一樹の直木賞受賞作。

震災孤児の「花」と
その養父「淳悟」の、二人の別れから出会いまでの物語。


内容としてはいつもの桜庭一樹。
女の生きざま、をねっとり、と重苦しく描く小説。

やっぱりいつも思うのだけど、色の薄い光景が浮かぶ本です。
作家が日本海側の生まれだから?


暗いパワーに掴み取られてしまうような読み応えです。


しかしこのタイミングで津波の話を読むなんて。


 「けっこん、おめでとう、花」

2011年4月6日水曜日

復活の日





小松左京です。

アウトブレイクでパンデミックな終末モノです。

世界中に新型インフルエンザが蔓延しはじめた。
致死率は70%超。
対策が取られるよりも早く感染が広まり、
道には引き取り手もない遺体が溢れだす…。
最後に残された人類は、ただ1箇所、南極に残された、たったの、1万人だった。

というお話。
これ書かれたの50年前だと思うと、凄いなあと素直に感心してしまう。


日本沈没もそうだったけど、緊張感をだすのが上手です。
前のめりになって読んでしまいます。

青い星まで飛んでいけ





小川一水の短編集です。
ハード4・SF境界2の計6篇でお送りします。

SF境界上の2篇は置いておきます。

好みなのは表題作、「青い星まで飛んでいけ 」

地球から遥か30万年、SETIを目的に宇宙をさ迷う、人工知性エクスが主人公です。
もうそれだけで大興奮ですが、
そのエクスが人類の末裔ホモ・エクスプロルレスを自称していたり、
自動増殖知性機械群が総合して1個体1知性種を作っていたり、
最大加速が準光速で1000年かけて恒星間航行したり、
未知との接触が怖くて仕方ないのに、与えられた使命のために探索を続けたり、
するところがまた、たまりません…!

あとオーバーロードが出てきちゃうサービスにも!

コンタクトは宇宙家族ノベヤマっぽい感じでした。これが好きならますますお勧め。


その他の作品は
アステロイドマイナーズ(あさりよしとお)な感じのボーイミーツガール、『都市彗星のサエ』。
ラストが成長後なとこが良いです。

エンダーのゲーム(カード)な感じの『守るべき肌』も惑星間戦闘が良かった。
仮想空間に全人類が移住しちゃう話は前にもやってたけど、
実際には、可能でも完全に移行はなかなかやらなそうなお話。
ネットワーキング社会の雰囲気は出て面白いけど。
きっと中長編にしたら他勢力がいたんだろうな。


『静寂に満ちていく潮』は、
「セァレラしい」
「可憐に甘つやつやしい」

4TEEN



 でもしかたない。
 ナオトの誕生日プレゼントを売っていそうなところは、
 渋谷くらいしか思いつかなかったんだから


石田衣良、3冊目。
東京に住む4人の14歳が色んな人に出会うという連作。
早老症・摂食障害・DV・終末期患者・ゲイ・家出少女とテーマは多彩。
1話目の早老症の仲間に援交をプレゼントするお話はなかなか面白かった。

直木賞受賞作だそうで、うーん…
正直3冊読んだ中で一番つまらなかったな…。
この賞が最高傑作に贈られるんじゃなくて
「そろそろ受賞すべき作家の最新作」に贈られるのは桜庭一樹のときに良くわかっていたけど…。

これを読んで、
中学生のリアルな心情が~
とか言ってたんなら
イリヤかゆゆこでも読んで出直してこいと言いたい。

まるっきり「大人が考えた中学生の発するべきセリフ」って感じ。
連作なのに前回無視だし。サザエさん時空の連作なの?

2011年4月5日火曜日

夜を守る




 大学を卒業して四年。
 自分からすすんでなにかをやりたいと思ったことは今回が初めてだった。


石田衣良2冊め
夜の上野・アメ横で冴えない4人、アポロ・サモハン・ヤクショ・天才が街を守るために立ち上がった!
という「痛快青春ミステリー」…いや、謎もないのにミステリーと言うのはどうか。本の煽りって適当だ。

冴えない面々が、街を守る傍ら、色んな人や事件に出会うお話。

ズッコケの大人バージョンな感じです。
たまり場になってる居酒屋の陳腐な料理が美味しそう。
主人公に将来への光明を示すんなら、
天才にも何かやってあげてほしかったと思う。


石田衣良、文章のこなれた感や読みやすさも取っつきやすい。
人物像なんかは類型的なきらいはあるけど

総合して等身大の若者向けなライトノベル(非オタク向け)作家と思う。
楽に読めます。


 「おれたちがやることはいつもどおりだよ。
 自転車を片付けて」
 「酔っ払いを介抱して」
 「落ちてるゴミを拾って」
 「そして、夜の街を地味に守るのであります」

2011年4月3日日曜日

GOSICKVII‐ゴシック・薔薇色の人生‐




 「ショー・マスト・ゴー・オン!」



待望の続編、ゴシックの7話目です。
待望っていうか、6が出てから3年半経ってるんですが・・・。
待ってる自分が偉いというかいくらでも待ってますが。


今回は母、コルデリア・ギャロの過去のお話。
踊り子だった母が、派手な衣装を着て、舞台から飛び降りて、走る。歌って、踊る。「薔薇色の人生!」


そして世界の方は、次なる嵐へ転がっていき、
小さな、ふわふわで、ぷくぷくで、偏屈で、恐ろしく頭のいいヴィクトリカと、
その運命の友達、一弥もまたそこに否応なしに巻き込まれていく。

…物語の終わりが見えてきたようです。
ますます絆を深めている二人は見ていて楽しいけど、きっと辛い未来が待っているのでしょう。

間に色んな話を書いてきた桜庭一樹だけど、シリーズとしてのゴシックに変わりがなくて安心です。
無事続きが出ただけでも嬉しかったですけどね。

ちょっと暗くてオカルティックな雰囲気が好きです。


 「この件は危険だ。君もかかわらないほうがいい」
 「でも、ぼくはかかわるよ」

REVERSE―リバース




 送ったメールは取り消せない。
 やり直しがきかない人生のように



病院でヒマだったのでロビーにあった石田衣良。

SNSで出会った、恋も、仕事も、性もさかさまなふたりが深く心を通わせていく。

ただ、その2人はお互いに秘密を持っていた。二人とも性別を偽っていたのだ…という中編小説。


良くも悪くもライトなノベル。
アイデアで勝負する本ではない感じで、普段アイデア勝負のジャンル(SFやライトノベル、ミステリもか)にどっぷりな身には物足りなさもある。


焦点はオフで出会うことが出来るか?というところ。
お互いを同性だと思って話が進んでいくのはおもしろかった。
ラストも面白い提案もあって○。
3冊の中では一番面白かった。

ただ香山リカの解説はいただけない。残念。


 「ぼくにとっても、この何年かでキリコが一番近しい人でした。」