2012年3月31日土曜日

春待ちの姫君たち / 友桐 夏

春待ちの姫君たち リリカル・ミステリー (コバルト文庫)


 「ほかの子たちとは区別して特別なただ一人だけにその権利をプレゼントしようって、
 入学直後から決めていたの。」
 「あたしの名前を」
 「赤音にだけ呼ばせてあげる――」

というリリカル・ミステリー第2弾。
今回は別にミステリじゃないような。
叙述トリックが含まれてるから?whoもhowもwhyもありませんが、まあいいか。

今度はさんざん後味悪めに進めておいて最後に救いがあるお話でした。
キャラクターたちそれぞれの現状認識の齟齬がメインだったとおもいますが
あんまり上手にそのズレを表現できていない文章でした。

いまひとつ。

白い花の舞い散る時間 / 友桐 夏

白い花の舞い散る時間 (コバルト文庫)




 だから、あたしたちはそれぞれまた新たな仮面をつけて会ってみましょうよ。
 本名でもハンドルネームでもない、新たな名前を用意するの。


という、「リリカル・ミステリー」です。コバルト文庫です。

同じ塾に通っているというだけの共通点を持っていて、しかし互いの顔も知らない5人が、
本名を隠したままオフ会を開催する。
舞台は人里はなれた洋館「ムラサキカン」。

さて、誰が誰なのか?


というお話だと思ったら、本命はそこではなくて、それぞれの家庭環境がみんな特殊で、あれ、ちょっと共通点が・・・?
というお話でした。

冒頭の展開から知能的かけひきな物語を期待してしまったのでちょっと肩透かし。
語られる家庭環境から導かれる物語を考えるというのはミステリっぽくて良かったけど
ちょっと後味悪めなラストでカタルシスがないのですっきりしませんでした。

米澤穂信関連のストリームで褒められていたので、期待しすぎだったかもしれません。


悪い意味でのコバルトっぽさはあんまりなくて
良い意味で子供向け少女小説しているのでこれはこれで。
デビュー作なので多少文章がこなれてないのはスルーして、もう1冊読んでみます。

2012年3月28日水曜日

故郷から10000光年 / ジェイムズティプトリーJr.

故郷から10000光年 (ハヤカワ文庫SF)


見据えるべきは小説であり、それがここにある。
確実な将来が約束された作家の第一短編集。
わたしは、たいへん楽しく読んだ。
あなたにも楽しく読んでいただけると思う。


――序文より


この序文に相応しい一冊である。
ただし、この年代のアメリカSFに多少親しんでいないとちょっと戸惑うかもしれない。

タイトルの秀逸さは最高。
短編集のタイトルであって、この名の作品がないのが残念です。

2012年3月13日火曜日

地球の長い午後 / ブライアン W.オールディス


地球の長い午後 (ハヤカワ文庫 SF 224)




 老いた世界にふさわしく、地球にはクモの巣がはりめぐらされたのだ。 

はるか未来。 
太陽が大きく赤く膨らみ、地球は熱く熱せられている世界。 
地上に生きる動物はたったの5種類となってしまい、地を支配するのは植物たちだった。 
という「地球の長い午後」。1961年の作品です。 

図書館の本ですが、とっても年季が入ってます。ボロボロの一歩手前。往年の名作感たっぷり(?) 

遠未来の終末的世界設定はマンアフターマンっぽくて楽しいです。 
自転が太陽に対して完全に止まってしまっているので地球の半分は永遠の夜、半分は永遠の昼。 
その昼部分の大陸はひとつの大木、ベンガルボダイジュが覆っています。
植物たちは消えた動物たちの生活圏を肩代わりして動けるようになり、弱肉強食の争いをしています。 
人間はというと、生き残った5種類の動物にかろうじて入っていて、捕食植物から隠れ生きる生活をしている。 
そして月は地球ー太陽間のラグランジュ点に固定されていて、地球との間に宇宙を渡る植物ツナワタリによる糸が張り渡されている。 

そんな世界です。 
実際には自転が止まると昼と夜の温度差で、特に黄昏地域は常に暴風域になって暴風グレンたちは吹き飛ばされてしまうと思いますが、その辺は古い本なので…。 

ストーリーよりは世界の説明がメインな感はありますけれど、一読の価値はあり。

天冥の標Ⅴ: 羊と猿と百掬(ひゃっきく)の銀河 / 小川一水


天冥の標Ⅴ: 羊と猿と百掬(ひゃっきく)の銀河 (ハヤカワ文庫JA)




「葉物は鮮度が命だからな」 

という天冥の標、第5巻。 

3,4は正直いまひとつだと思っていましたが、 
5は文句なく最高です! 

今回は、今から遡ること6000万年前、地球から遠く離れた惑星の海の中で「我あり!」と覚醒したノルルスカインの誕生から長い旅の話と、 
西暦2349年、アステロイドベルトの小惑星の一つで細々と農業を営む農夫タックヴァンディのお話。 

超銀河団規模の舞台とアステロイドベルトあたりでウロウロしてるお話が並行で語られるのが面白いですね。 

サンゴ虫(に似た生き物)を(人間でいう)ニューロンのひとつひとつのようにして 
そこから発生した意識、という地球外知性というのは斬新でわくわくしますよ。 
しかもサンゴたちそれぞれも自意識があるという。 
(他にも前例があるのかも知れないけれど、私は知らない。あったら凄く知りたい。) 
つまり、隣り合った細胞と細胞の化学反応から意識というものが現れているのなら 
隣り合ったサンゴ虫とサンゴ虫の相互反応の積み重ねから意識というものが生まれても不思議でないというネタです。 

小惑星農業のほうも、宇宙で農業するっていうのがどういうことなのか、興味深いことしきりです。 
アニーがアレだったあたりは、こう来るか~!と膝を叩いてしまう展開で大興奮。 


間に小ネタとして、「銀河ヒッチハイクガイド」ネタが挟まれています。
スポンジが大変重要視されていてタオルがとっても貶められています。 
つい笑っちゃったけど、ちょっと強引じゃないかな~? 

5巻までの各巻を面白い順で並べると 
2>5>>>3>4、かな。 
1巻はまだ評価できません。巻が進むごとに1巻が面白くなっていきます。 

ところで、 
0.8光速で進むオムニフロラがボイドを渡るのに3000万年というのはずいぶん早い気がします。 
Wikipediaによるとボイドの直径は1億光年以上。 
真ん中を渡る必要はないけど、ボイドの端っこをちょっとショートカットしただけ? 


「ぼくは思ったよりもたくさん見てしまったから」 
「何を?」 
「人が、可憐に滅んでいくさまを」 

2012年3月3日土曜日

群青神殿 / 小川一水

群青神殿 (朝日ノベルズ)

ここはニライカナイだ。 
おまえが探してきた幻の地、隠された海の秘密だよ 



という海洋・深海SF。 
小川一水、いまだマイナーなりし頃の作です。 
メタンハイドレートを探す潜水艇乗りが主人公。 
SFガジェットは、何処かから現れて大型船を襲うようになった生物。 

あとがきで著者も触れているように、「日本沈没」の深海で味わったワクワク感と緊張感をこの作品でも体験できます。 

最後に現れる幻想的な光景は一読の価値あり。 
新書で再販してるとは知らなかった。 
新作だと間違えて読むとがっかりするかも知れません。