2012年2月19日日曜日
桜色の春をこえて / 直井章
カーサ
「帰ろう、私たちの 家 へ」
絵に描いたように不幸な女の子がふたり、
突然同居暮らしをすることになる。
はじめは歯車の噛み合わないふたりだけどだんだんお互い掛け替えのないものとなっていく。
というお話。
主人公の一人称がクールで好感。
不幸具合も容赦なしで、読んでて胸が苦しくなります。
著者のデビュー作ですが、
特筆するほど上手いところはないし、
他に本を出しているか調べる気になるわけでもない。
でもなんか好きです、この本。
桜の花が舞う情景が綺麗です。
どこで何を見てこれを読むことにしたかも忘れてしまいましたが、良い出会いだったと言えます。
しかし、単語や文法の間違いが多い・・・。
中高生が読むライトノベルだからこそ、こういうところはキチンとして欲しいですよ。
2012年2月13日月曜日
約束の方舟(下) / 瀬尾つかさ
「ああ。きれいだろ、俺たちの新しい地球は」
星間移民船ジュブナイル、後編。
さらに3年経ち、シンゴたちは18歳になり、船は後10日で目的地タカマガハラⅡの周回軌道に乗る予定。
人々と共生しているゼリー状生命ベガーを巡る、子供たちと大人たちとの溝はむしろ深まっていた。
そんな中、スイレンの書き上げたベガーの生態についての論文が新たな火種となり…。
というお話。
とっても良いジュブナイルSFでした。
目的地到着という希望の日が、ベガーに対する社会のあり方が変わる変革の日でもあって、
その日までになんとか力を付けてベガーを護ろうとする子供たちという図式が、読んでいて応援したくなってしまいます。
悲壮なまでのがんばりを見せるキリナ、スイレン、ケンたちとあくまでお気楽な彼女の対比が面白い。
スイレンは幸せになってくれたのでしょうか…?
ラストの余韻感も好きです。
鯨というと、「クジラのソラ」のクジラを思いうかべてしまいますが、関係あるのかな?
読み返してみると発見が、あったりすると楽しいのですがさて。
「シンゴは偉くなった」
「六年前よりずっと頼もしくなった」
「わたしもがんばらないと」
ーーもうすぐ旅は終わる。
県庁おもてなし課 / 有川浩
ーー彼らは実に、悲しいほどに、どこまでも「公務員」であった。
という、実在の高知県庁おもてなし課をモデルに書かれた、地方観光再生の物語。
自然以外になんにもない高知県という田舎をどうすれば観光立県として盛り上げられるか。
ひいては外貨収入を増やして自治体破綻を回避し、先細りの見えている現状を打破出来るか。
頭の固いお役所に、それをさせるには、どうすればいいのか。
ちょっと緩めのプロジェクトX的お話でした。
これが面白いかっていうと、面白い。
まず語り口が上手い。
やはり有川浩という作家は上手い。
前半の、お役所をボロボロにけなしながらも次々とその代案が出てくる展開は、主人公に感情移入してしまって苦しくなるけど、こうなればいいのに、が実現していく楽しさが溢れていて凄く好きです。
後半はもうちょっと先まで描いて欲しかった。
成果が出るところまで行ってないので消化不良です。
現実のほうに合わせると仕方なかったのかも知れませんが。
これが小川一水だったら最後の「夢」のところが実現した上で宇宙人が現れて地球テーマパークプランくらいまでやってくれるのになあ…。
現実的なところが面白いところといえばその通りです。
これ、全国の田舎県でこぞってやってくれないかな。
パラグライダーやってみたくなりました!
以下役体のない愚痴。
吉門さんが有川浩をモデルにしてると思うとちょっとなんだかなあと思ってしまったり
「パンダ誘致論」が有川浩のパパの発案だと2回も言っちゃったりだとか、
この人、もうちょっと裏事情は隠しておいてくれないかな…。
あと主人公がBL思考なのが…。
2012年2月8日水曜日
シュレディンガーのチョコパフェ / 山本弘
詩人をよこせというのだ。
詩人にだったら重大な秘密を打ち明けてもいいと言ってきた。
しかもそれは、星間文明滅亡の原因に深く関わるものであるらしい。
という、山本弘の短編集。
先進波発生装置で世界の消滅をたくらむマッドサイエンティストの表題作「シュレディンガーのチョコパフェ」
時間圧縮装置を付けられたサイボーグの話「奥歯のスイッチを入れろ」
異星人とともに、謎の海賊船を追っていく話「バイオシップハンター」
文明消失の謎を解くため、超文明の末裔に出てこないかと話を聞きに行ったら詩人にしか話さないぞと言われた話「メデューサの呪文」
情報だけやりとりしてエントロピーが変わらないからタイムトラベル出来るよ、という「まだ見ぬ冬の悲しみも」
人類の7パーセントは哲学的ゾンビだった話「七パーセントのテンムー」
実在の人物をなぜかクトゥルフ的ホラー話の主人公にしてしまった「闇からの衝動」
以上7編。
好きなのは「メデューサの呪文」かな。
物質文明を捨てた種族というはなしは良くあるけど、その先が言語文明というのはなかなか面白い。
言語兵器というガジェットもいくらでも広げられそうで楽しい。
「呪法宇宙 カルシバの煉獄」というSFで、「感染」した敵の使う「呪文」を聞くとその人間も感染してしまう話がありました。
宇宙中に広がってしまうかも知れない、という怖さがよく似てます。
「象られた力」も通じるところがありますね。
あと「食前絶後」の言葉とか。
説教くさい、と解説でも言われているのはいつも通り。
説教というよりは愚痴っぽい。
このへんはやっぱりちょっと好きになれない山本弘っぽさです。
主人公たちのおっさんくさい性格も今ひとつ好きになれないし、
「天然無能」がスラング化して「テンムー」になるセンスも合わない感じ。
でもそれでも読んでしまうSFとしての面白さがあるんです…。
アンビバレンス。
約束の方舟(上) / 瀬尾つかさ
「でもね、きっとそれは嬉しいことなんじゃないかって。」
100年の時を渡る多世代型恒星間移民船。
突然現れた、バガーと呼ばれるゼリー状異星知的生命との戦争と和睦から15年。
戦争で区画の7割が破棄され、人口は6分の1に、宇宙服は数着しかなくなってしまった社会で、
唯一、宇宙服の代わりとなったのが、戦争相手の異星生命バガーだった。
戦争を経験した大人たちはバガーを嫌悪、恐怖するが、
戦争を知らない子供たちは、バガーをかけがえのない友人として、真の共生社会を目指す…という箱庭SF。
恒星間移民船モノは大好きです。
広大な宇宙に乗り出して行く未知への挑戦な感じとか、
それでいて孤立無援でさみしい感じとか、
あと悲愴感とか。
限られた物資、閉じられた空間のなかで工夫があったりするのも好き。
時には出発時の技術を失伝して、ロストテクノロジーとして掘り出したりするのもワクワクします。
主人公は少年少女で、ライトノベルというよりはジュブナイルSFな風味があります。
天才の女の子を追いかける秀才の男の子の構図が、どことなく「サマー/タイム/トラベラー」の雰囲気。
異形の他星生命で、バガーってのは、ベガー@「エンダーのゲーム」を思い出しちゃうけど関係あるのかな?
シンクして船内を飛び回る感じも、エンダーの訓練シーンを想起させるようなところがあります。
読んでから気づきましたが、「クジラのソラ」の著者だったのですね。
他の本も読みたくなりました。
新天地到着まで、あと3年。
後編が楽しみです。
2012年2月3日金曜日
ますます眠れなくなる宇宙のはなし~「地球外生命」は存在するのか /佐藤勝彦
「みんな、どこにいるのだろうね」-エンリコ・フェルミ
「眠れなくなる宇宙のはなし」の続編、「ますます眠れなくなる宇宙のはなし」です。
もちろん著書は佐藤勝彦先生です。
ホーキングもそうですが、世界トップクラスの物理学者が一般向けに書いた本がほいほい読めるなんて、いい時代だと思います。
寝る前に1章ずつ読んで、1章読み終わったら「おやすみなさい」と言ってもらえる、という趣向の本です。
今回は地球外生命はいるのか?というおはなし。
フェルミのパラドックスやドレイク方程式から、
火星のタコ宇宙人の話、
地球の生命の成り立ちの話、
太陽系以外の惑星探しの話、
そして、宇宙人探しの話。
が、わかりやすく、面白く、語られます。
特に第四夜「第二の地球はいくつあるのか」はワクワクが止まりません!
今、続々と発見され続けている系外惑星の最先端の情報山盛りです。
宇宙人を探す「SETI」は、無駄遣いと言われる宇宙関連のなかでもいちばん無駄遣いなプロジェクト群だと思いますが、ロマンに溢れまくっています。
自分が生きているうちにファーストコンタクト、ないかなあ…。
アバタールチューナーⅤ /五代ゆう
「サーフ
「わたしたち、<神>を助けるの――それとも、殺すの?」
という終末系能力バトルSF第5巻、完結編。
なんだか「神狩り」みたいになってきましたが、
次元が上の存在である狂った神さまをなんとかしないと、地球は完全に滅びるぞ!な感じで悲壮感上乗せです。
バトルシーンは若干飽きてしまうようなところもありましたが、重めのストーリーは読み応えあって楽しませていただきました。
五代ゆうに合っている素材だったんだろうな~と思います。
地上編より、ジャンクヤード編が好きでした。
「ジャンクヤードに降りて、
わたしははじめて人間になった。
人間であることのすばらしさを、
生きることの光を、それから罪を、知ったの。サーフ。」
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