2011年6月27日月曜日

ふたりの距離の概算 / 米澤穂信






 「困りました・・・。でも、摩耶花さんたちには悪いですけど、黙っていたらわかりませんよね。」


青春の日常ミステリ古典部シリーズ、その5冊目。
毎度おなじみ古典部の面々も2年生になりました。

表紙は正直どうかと思います。


部長と新入部員の確執の原因を、20kmを走りながら解決するのだ@マラソン大会

というおはなしです。
主に、主人公が走りながら思い出すというシーンで構成されています。
相変わらず、というよりいつにもまして地味だ。

ミステリ的にはいろいろオマージュが含まれているようですが
それが分かるほどのミステリ読み、ではないので、ホータローの思考過程を純粋に楽しみました。
章ごとの小さな謎解きが好きです。


新入部員の今後が気になります。
絡んでくるのかなあ。

宇宙の漂流者 / トム・ゴドウィン

宇宙の漂流者 (SFロマン文庫 (23))


「冷たい方程式」のゴドウィンの長編。 画像が見つからない・・・。

まあ古いSFで古い翻訳で、しかも子供向けとして書いてるので大概読みにくいのだけど
たまにはこういうのも面白い。


居住に適した惑星に移民する途中で、敵に捕らえられ、
厳しい環境の惑星に置き去りにされた人間たちが
200年・数十世代をかけて復讐を成し遂げるというお話。


ハードなSFとしてみると、ツッコミどころが多すぎるけれど
生きるだけでもギリギリという世界で、なんとか次の世代に希望を引き継いでいくというのはグッと来る感じ。

「子供の頃に読んで、すごく印象に残っている」という話をよく聞く一冊。

2011年6月26日日曜日

理由(わけ)あって冬に出る / 似鳥 鶏





 怪奇現象は真か偽かはっきりしないからつい確かめてみたくなる。
 つまり、逆に人を引きつけてしまう。
 本質的に人は皆、矢追純一だ。

 ――それは言いすぎです。




芸術棟にフルートを吹く幽霊が出るらしい――

幽霊の噂に怯えた吹奏楽部員を練習に来させるために、

立ち上がった吹奏楽部長――に頼まれた美術部員が、1日1「幽霊の謎」を暴く!



というような感じのお話。

ライトノベル的、というのはこういうのを言うのです。

良い意味でキャラクターが立っていて魅力的。

人は死なないが日常の謎でもないバランスも良し。



次を読みたくなる佳品でした。

天使が開けた密室 / 谷原 秋桜子






米澤穂信のおかげで、ミステリ界隈にも少しずつ手が伸び始めたこの頃。


これもどこでお薦めを読んだのか覚えていない・・・。



葬儀屋でアルバイトを始めた主人公が殺人事件に出くわして、

容疑者扱いされてしまったので自分の手で真相を解き明かさなくては!



というお話。



かの「富士見ミステリー文庫」から出ていた物を創元推理文庫で出し直したそうです。

こんなの出してるからお取り潰しになっちゃうんだよ、富士ミス・・・。

どの層を狙ったんだ。

これがライトノベルっぽいとレビューに書いてる人は、絶対にライトノベルを読んだことないだろう。



ちょっと古いタイプの少女小説がミステリやっている感じかな?

ライトノベルとしては古すぎて、

ミステリとしては、・・・本格ってこういうのなの?





解決編と、タイトルのダブルミーニングの関係はなかなか美しくてそれだけでも一冊読んで良かったかな。

2011年6月25日土曜日

四畳半神話大系 / 森見登美彦



大変楽しめました。
ひねくれた感じと、ふしぎの国な感じがとっても好きです。

しかし、これをアニメ化しようと考えた人と、
あのようにアニメ化した人は偉いと思います。

四畳半の神も喜んでおられると思います。
でもタイトルには騙された感が否めないです。

機械の仮病 / 秋田禎信




「恋人が機械であったというのは、どういう気持ですか?」



という、 秋田禎信。
無自覚のうちに、体の中の一部が(内蔵とか、骨とか、血管とか)機械に置き換わってしまうという病気
「機械化病」を巡る連作短編。

機械に変わるのは体の中だけなので、見た目には分からない。
それどころか自覚症状もない。精密検査をしないと自分にも他人にも分からない。
しかも機械化した部分は病気にならないので、むしろ体調は良くなるという病気。

一話目は、別れた直後に死んだ恋人が、前例のない「体の全てが機械に変わっていた」症状だったというお話。
他に、小学生の息子のクラスでのいじめの原因が機械化病だったおはなしとか、
プロのランナーだった男が機械化病が原因で正式な大会に出られなくなったけど走ることをやめられないおはなしとか、
自殺志願者サークルの中で、機械化病にかかった故になかなか死ねない人のおはなしとか、


すべて機械化病が原因にあるのだけど、物語は機械化病について語るのではなくて
ちょっと変わった要素が社会に加わった世界の、普通の人間たちのお話を語ります。
だから「機械化病」とはなんだったのか、ということや、その後の社会がどうなっていったのか、ということは分からないままです。


始終、閉塞感の漂う1冊。
でも独特の雰囲気がありますね。好きです。

タイトルの意味を深読みしてしまうけど、やっぱり良くはわからないな。

さよならジュピター 下巻 / 小松左京


 



「2億5千万人・・・だと?
人類190億人のうち、脱出できるのは、
たったの2億5千万人だというのか・・・?」
 「それも、もっとも楽観的な数字です・・・」




という、和製古典SFの名作のひとつ、さよならジュピター、その下巻。
以下ネタバレしまくりなので未読の方はご注意下さい。

2011年6月24日金曜日

閉じた本 / ギルバート アデア




 気のせいなのか?
 本当にそうか?
 ―― 
 あるいは、頭がおかしくなり始めているのか?


怪我で視覚を完全に失った作家が、口述筆記用の助手を雇う。
何も見えない彼が世界を知るのは、ただ助手を通してのみ。
すべてが順調に進んでいるようだったのだが、何かがおかしい・・・。

というサスペンス。

近頃乱読なので、どこでこの本を知ったのか忘れてしまったけれど
会話文と、盲目の作家の独白だけで進むという独特の手法はなかなか楽しめた。

全体のストーリーは特別意表をつくというほどの物ではなかったけれど、
オチには「おお」、と声が出た。


サスペンスも面白いですね。

ベン・トー サバの味噌煮290円 / アサウラ




半額弁当の為に命がけで戦うという、そういうお話。
くだらなくていいです。

ライトノベルのなんでもアリ感が出てて良いです。
こういうのを許容できる分野っていいと思います。


ちょっと手抜きな感じが(主にあとがきから)ただよってくるのが気になる。

俺の妹がこんなに可愛いわけがない 7 / 伏見 つかさ





こういう、すごーく読みやすくて楽しいだけの本って大好きです。
ライトノベルは昨今、こういうの作ると中学生男子向けにあの方向に特化しちゃうけど
これはそんなでもないのもいいよね。

今回は、一番衝撃の引きでした。次も楽しみ。

2011年6月15日水曜日

さよならジュピター(上) 小松左京




22世紀。
火星で発見された「地上絵」、それはナスカの地上絵と同じ物だった。
そこには宇宙人のメッセージが秘められていた。

という冒頭から最高潮な感じの小松左京。
日本SFの名作として名高い(らしい)、彼の代表作、その上巻です。

「木星太陽化計画」とか、「宇宙考古学」とか、「木星の雲の中に沈んだ、宇宙人の遺跡船」とか、わくわくするワードが一杯です。

前半、あんまり動きがなくて退屈かな?と思いながら読んでいましたが、
彗星源探査に向かった有人船にトラブルが!
というあたりからジェットコースターのように面白くなります。

だれも知らない木星の雲の中をリアルに詳細に描写してしまうあたりはさすがだな~と思ってしまいます。

宇宙船搭載のAI(なんて言葉は当時なかったのか)が、妙に人間臭いのが好きです。
「ヤマモトヨーコ」にも惑星点火器というのが出てきたし、
「天冥の標」には、木星の大気に浮かぶ宇宙人の遺跡が出ていたり、やっぱり後世に多大な影響を与えているんだなと実感できる一冊。

下巻を読むのがすごく楽しみ。



 「それで、まさかその『母船』が5万年後の今も、
  木星大気の中をただよっている、というわけじゃないだろうね・・・・・・」

ハンターダーク 秋田禎信




 ザ・ハンターとその一党、鬼の強さの五人組。
 恐れを知らぬ馬鹿者が、恐れるならばそれもよし、彼らは自ら名乗り出す。
 闇の五人が求めるは、掴めぬ夢か掴める夢か。
 此処が終わらぬ夜ならば、夢もはてなく続くだけ・・・・・・


「オーフェン」の秋田禎信がおくる、ハードボイルドダークファンタジー。
ハードゆえにハードカバーで値段もハード。2800円也。

膨大な闇に沈む地下世界に、突然目覚めたひとりの機械人、ハンター。
そこに生きる者たちは全て機械の体を持つ人々だった。
生身の部分は脳、それのみ。
世界はガラクタで出来ている。町も、地面も、何もかも。

という感じでハードボイルド。
トライガンよりも荒れ果てた世界で、無法者たちを叩きのめす、ハンターとその仲間たち、というお話。

設定魔の秋田らしく、機械人の戦闘は機械人たちの特性をフル活用して描かれていて、
ぐっっっと来ます。
世界の謎もわくわくします。


ところで、秋田禎信といえば、オーフェンシリーズの新作が始まるらしいですよ。
秋田禎信BOXの、さらにその後のお話だとか。楽しみすぎて困ります。




 「俺の機能とは・・・・・・
  恐らく、探し、追い求めることだ」
 「なにを」
 「失った、なにか大切だったはずのものを」

2011年6月13日月曜日

植物図鑑 有川浩



 「フキノトウが今、3、4個のパックで398円。
  フキだと1束298円。
  それがタダで自然に生えています。OK?」


という、植物図鑑。植物図鑑だけど図鑑ではありません、小説です。
有川浩の連作短編。初出はなんと、ケータイ小説。
オーダーは「女の子の旅と冒険」。
上梓されたのは、近所の野っ原にカップルで出かけていって、
道端の草とか草とか花とかを採ってきて食べるというお話でした。

ツクシ、ノビル、タンポポから始まって、ユキノシタ、スベリヒユ、イタドリなどなど、
食べれるかどうか以前にどんな草かも分からない植物たち(きちんと写真が載ってるところが嬉しい)が、
とーってもおいしそうに食べられていきます。

こんなにおいしそうならやってみたい!
と純粋に思わせる描写はさすがの一言。
ですが、素人は図鑑程度で手を出すな、としっかり釘も刺してくれてます。


裏テーマは「リアル落ち物女の子バージョン」だそうで、(落ち物、ってつまりラピュタ物ってこと)
イケメンが普通のOLに突然拾われるところが始まり。
甘々のラブラブなのもいつもの有川浩。

お話は面白いんだけど、甘々すぎるのには慣れないなあ・・・。
この甘々にどこまで耐えられるか試験を受けているかのような気分になってきました。

装丁もいいですね。

 ノイチゴのサンドイッチは残しておいて最後に食べた。
 体がすっきりするような甘酸っぱさ。
 まるで恋してるような味って言ったら、けっこうあたし恥ずかしい?

涼宮ハルヒの驚愕 初回限定版




 「真打ちは遅れて来るものよ。
  もしくは結局来なかったりね。」


という涼宮ハルヒ、最新刊。
初回限定版には短編入りの小冊子も付いて、上下巻セット販売です。

すっかり忘れた頃に出たなと思っていたら4年ぶりだったそうで、どうりで前回のお話を思い出せないわけです。
シリーズ終盤の続きもので前半出しておいて後半が何年も出ないなんて、ひどい話もあったものですけれど、

「主人公死亡!」で前編が終わってその後編が出るまで6年耐えた、ろくご者には死角はありませんでした。


・・・小説なんてジャンルには良くあること、と言ってしまうと涙がこぼれてしまいそうですが。


さてそのハルヒ、今回はαパートとβパートでなにやら平行世界な感じで進んでいるぞ?というお話でした。

進級したSOS団に新入団員が入ってくる、日常ドタバタ思わず頬も緩むαパートと
ハルヒの能力を奪おうと画策するニセSOS団と対決するキョン、なシリアスβパート。

全体的には、楽しく読めました。
前回から新登場の佐々木も好きになれるし
今回の新キャラ、ヤスミもハルヒを後輩キャラにして屈託なくしたらこんな感じかなあという、理想のハルヒって感じで良い。
もっとたくさん出してくれても良かったのに。

硬軟入り乱れてバランス良いんだけど、しかし、
これって分冊にするほどの内容だったかなあというのが正直な感想です。

ハルヒだと思って読むとちょっと冗長。
「学校を出よう!」の訳のわからなさに近い印象。
キョンの独白が回りくどすぎていつも以上にイライラする。

ハルヒ、って漢字名は春日だったのか!というか漢字名あったのか!というのが一番の「驚愕」でした。

小冊子は、佐々木とキョンの中学生時代の1エピソード。
可愛らしくてたいへんよろしい。


 「今日からわたしはSOS団の一員です!
  よろしくお願いします!」